心不全のセルフモニタリングとは
心不全をセルフモニタリングするって、どういうことなのでしょうか?
セルフモニタリングをすると、なぜ病状管理に役立つのでしょうか?
ここでは、心不全に対するセルフモニタリングの意義と有効性を、学術研究成果をもとに解説します。
Contents
心不全のセルフモニタリングって何?
心不全患者様のセルフモニタリングは、
良好なセルフマネージメントおよびQOLの改善を導くために、心不全に伴う身体症状の変化、身体活動の変化、体調管理の状況について自覚または測定し、その内容を解釈すること
Y. Hattori, et al: kobe J. Med. Sci, vol57, No.2, 2011, Development of Evaluation Scale for Self-Monitoring by Patients with Heart Failure.
であると定義されています。いまいち、ピンとこない方も多いことでしょう。
専門的で難しい定義なので、詳しく解説していきましょう。
心不全と診断された患者様は、病状安定後、ご自身による健康管理を行なうことができるように、医療者からセルフモニタリングに関する知識提供をうけています。
特に、退院前などに、色々な説明をされますが、その中にセルフモニタリングの知識がたくさん含まれています。
「これが、セルフモニタリング項目ですよ」、と明確にいわれることは滅多にありませんが、患者様が自らの健康や病気を適切に管理できることを目指し、患者様の病状や症状の特徴を踏まえて、注意点や自分で観察したり測定したり留意したりする点について、指導的なかかわりの中で、その知識や必要な測定技術などを伝授される方がほとんどかと思います。
患者様はそれらの知識や伝授される技術を受け、ある程度の理解のもとにセルフモニタリングを実践し、日常生活をおくられています。
言われたことはきちんと守って生活をなさっている方がほとんどです。
しかし、塩分、水分制限の不徹底、過労、治療薬服用の不徹底などにより病状が急激に増悪し、入退院を繰り返す患者様が多くおられます。
不徹底とよく言われるのですが、決して何かをさぼったり、適当にしてしまっているのではありません。
病状が一時的に悪くなることはよくあることなのです。それを早期発見し、体に負担をかけないような対処行動が必要なのですが、対応が送れてしまい、いつもと同じように過ごしていると、急激に体調を崩してしまうことがあるのです。
だから、心不全は、とても難しく、繊細な病状管理が重要な病気なのです。
患者様自身による健康管理を強化するためには、病気に関して得た知識を活用してセルフモニタリングを適切に実践できるようにする必要があります。
具体的には、最初に紹介した定義にあるように、身体症状の変化、身体活動の変化、体調管理の状況に対して、自分の状況を「自覚」したり、「測定」したり、自分の状況を「解釈」し、自分で病状増悪の兆候を早期発見できることなのです。
身体症状の変化、身体活動の変化、体調管理の状況って何?
心不全のセルフモニタリングで鍵となるのは、身体症状の変化、身体活動の変化、体調管理の状況をとらえることです。
ここでは、具体的に、何をとらえていくのかを見ていきましょう。
身体症状の変化
「身体症状」は、文字通り、からだに生じている症状をとらえていくことですが、特に心不全が悪化するときに現れやすい症状を注意深くセルフモニタリングすることが重要です。
特に重要な身体症状は、体重増加、血圧や脈拍の変化(動悸)、浮腫や尿量の変化、水分や塩分の摂取状況、息切れ(呼吸苦)、咳嗽(咳)、不眠や倦怠感の状況とされています。
あなたの体調は、日々変化しています。寝る前は元気でも朝起きるとしんどくなっていることがあるように、さっきと今は同じ体調ではないのです。
刻々と変化する体の調子を感じ取っていくことが、身体症状のセルフモニタリングなのです。
からだにだるさ(倦怠感)は出てきていないか、咳や息切れ、呼吸のしにくさ(呼吸苦)は現れていないか、などなど、自分の体調の変化の兆しを「自覚」していくのです。
体重増加や血圧、脈拍の変化は、体重計や血圧計を活用して「測定」をすることが必要ですが、測定結果を継続的にモニタリングしていくことで、自分の体調の推移を理解し、病状悪化の兆候をとらえることができるようになります。
身体活動の変化
「身体活動」は、こちらも文字通りですが、日常生活におけるからだの動作及び、ちょっと頑張ったときになどの負荷のかかる動作に伴う身体の動きを指します。この身体活動の変化は、心臓の予備力を如実に反映しています。
いつも通り動けているのか、いつもやっていることが今日もできているのか、という自分の身体活動の変化の有無をセルフモニタリングしていきます。
生活での活動量は、人によっては家事や仕事で非常に多く、人によりますので、ご自分の可能な活動範囲を把握する、すなわち、これ以上動きすぎたら具合が悪くなるという分岐点を把握することは大切です。
心不全だから、動いてはいけないということはありません。かえって動かないと筋力が低下し、静脈還流が悪くなったり、心臓の予備力は低下してしまいますので、適度に体を動かし、心臓の力を維持するのは、よいことなのです。
しかし、動きすぎては、心臓の負荷となり、体調を崩しますので、自分の心臓は、どの程度の動きに耐えうるのか、自分の身体症状の自覚と合わせて、身体活動の変化をセルフモニタリングし、適切な身体活動を心掛けることが必要なのです。
体調管理の状況
「体調管理」は、病気や症状を安定させるために処方されている服薬指示を守り、治療への能動的な参加を維持することを指しています。また、日々の生活の中で何気なく行ってしまう飲水や食事ですが、水分量や塩分量の摂取を適量を維持できることも大切です。
自分は、体調を管理する行動を適切に行なえているのかをセルフモニタリングする、ということになります。具体的には、内服をきちんとできているか、定期受診をきちんと行なえているか、ということになります。
よく、セルフケアと言いますが、これはご自分でご自分のケアがよくできているということを指しています。
このセルフケアができるためには、まず、「セルフモニタリング」が適切に行なえる必要があります。
自分の状況を的確に把握できること、すなわちセルフモニタリング能力を身につけることが、適切な対処行動への第一歩なのです。
あなたのセルフモニタリング能力を高めることで、あなたの心不全管理(セルフケア)は大きく変わります。
自分の体は自分で把握し、守っていく、そのためのセルフモニタリング能力なのです。
セルフモニタリングがもたらすアウトカム(成果)
セルフモニタリングができるようになると、どんないいことがあるのか、見ていきましょう。
QOLの改善
「QOL」とは、生活の質を指しますが、 人間らしく満足して生活できているかを評価する概心で、充足度が高ければQOLが高いと言われます。心不全の方がセルフモニタリングを実践するようになると、「心不全増悪のリスク軽減」と「再入院のリスク軽減」といったQOLの改善が期待できると考えられます。
心不全の方がセルフモニタリングを行なうと、自分の病状を把握して悪化の兆しを早期発見することができるため、「心不全増悪のリスク軽減」をもたらすことができます。つまり、病気が悪くなる頻度が減る、病気が悪くなりにくくなる、という訳ですから、いつもの暮らしを維持しやすくなり、QOLの向上に寄与することにつながります。
また、心不全増悪のリスクが減れば、「再入院のリスク軽減」にもつながります。病状悪化が生じてしまったとしても、早期対処しやすくなるため、外来受診や自宅安静などのフォローで済むことも多くなり、再入院に至りにくくなります。よって、QOLが高くなるといえるのです。
適切なセルフマネージメント
「セルフマネージメント」とは、シンプルに 「自己管理」もしくは「自律」と語訳されています。自分の健康を維持したり病状や体調の悪化を予防したりするために、自分自身を適切に抑制したり管理したりすることです。心不全の方がセルフモニタリングを実践するようになると、「適切な対処行動」と「身体活動の維持」と「生活習慣の是正」といったセルフマネージメントの改善が期待できると考えられます。
心不全の方がセルフモニタリングを行なうと、自分の体調変化が分かるので、行動が変わり、「適切な対処行動」が取れるようになってきます。特に、病状悪化の兆しを感じ取ったときは、病状悪化のサインである呼吸苦や浮腫みは出ていないかを自覚から観察したり、血圧を測る、体重の変化を確認するなど測定を行なったりして、病状把握に努めたり、状況が思わしくないと解釈されたら、早めに休む、不摂生をしない等、自分にできる対処行動を取ろうとします。これが、『適切なセルフマネージメント』であり、具体的には、「適切な対処行動」を取っている状態です。
セルフモニタリングは、自らの状況をとらえ(自覚・測定して)、何が起きているのかを解釈することですが、そのセルフモニタリングが充実し的確になれば、より「適切な対処行動」をとることが可能になる、すなわちセルフマネージメントが適切に行なえることにつながるのです。
また、心不全の症状悪化が起こると、これまでの活動ができなくなったり、日常生活の縮小が生じたりしますが、セルフモニタリングができていると、それらを引き起こすことなく「身体活動の維持」されやすくなります。体調を崩しかけても、セルフモニタリングにより自らの病状把握ができるようになると、無理な身体活動を避けるなど、心臓の調子に見合う「身体活動を維持」することも可能になります。よって、自ら身体活動を管理・調節するというセルフマネージメントが適切に行なえるのです。
さらに、セルフモニタリングは、自分の身体状況を深く理解することにつながるため、自分の心臓にとって負担となる「生活習慣の是正」につながります。塩分を制限する、水分量を調節する、受診をする、薬を飲む、といった日常生活での行動一つ一つが心不全の管理に関わってきます。セルフモニタリングは、そういった自らの行動による心負荷をモニタリングするため、よくない習慣は改善しようという気持ちが強くなり、「生活習慣の是正」というマネージメントが適切に行われていくようになります。
心不全のセルフモニタリングの様相図
以上に解説した、心不全のセルフモニタリングの様相を一つの図にまとめたものが下図です。
先行要因:お一人お一人、これまでの経験などから、心不全やセルフモニタリング、セルフマネージメントに関する知識や関心があり、人によっては血圧や体重測定、脈拍測定などの技術も持っている状態を現しています。
属性:心不全を患う方に必要なセルフモニタリングの具体的内容を模式的に現しています。心不全のセルフモニタリングの定義にあるように、自らの「身体症状の変化」「身体活動の変化」「体調管理の状況」を自覚・測定・解釈によって把握することを意味しています。
帰結:心不全のセルフモニタリングを実践することにより、どのような結果(成果)が生まれるのかを現しています。「適切な対処行動」「身体活動の維持」「生活習慣の是正」といった「適切なセルフマネージメント」と、「心不全増悪のリスク軽減」「再入院リスクの軽減」といった「QOLの改善」が期待できるということを意味しています。
ちなみに、このセルフモニタリングは、心不全を患っている場合の内容であり、他の病気の場合のセルフモニタリングの様相は異なりますのでご注意ください。
参考文献
服部 容子, 多留 ちえみ, 宮脇 郁子: 心不全患者のセルフモニタリングの概念分析, 日本看護科学会誌, 30巻, 2号, 74-82.