体調の変化を確認する
身体の動き(活動量)のセルフモニタリング
ここでは、心不全が悪化傾向にあるときに感じやすい体調の変化で、自ら把握しやすい変化の一つである身体の動き(活動量)について解説するとともに、自らの身体の動き(活動量)を観察して、セルフモニタリングする方法についてお伝えします。
身体の動き(活動量)をセルフモニタリングしていますか?
あなたは、普段、自分の身体の動きについて、感じたり意識したりしていますか?
「最近、階段を上るのがきつくなった」「身体を動かすとむくみがでやすくなった」などと感じると、『年だなぁ~』と年齢のせいにしてしまってはいませんか?
身体の動き、活動量の変化は、心臓の調子を反映していることはご存知でしょうか。
心臓の悪い方は、この身体の動きがいつもと変わりないか、活動量は維持できているか、という変化を意識することがとても重要です。
心機能と身体活動との密接な関係を理解することこそ、セルフモニタリングが的確にできるようになる大切なポイントですので、ぜひ理解を深めてください。
心臓は全身の動きに応じて、消費される酸素や栄養素を骨格筋へ運んでいます。動きが激しくなると、消費エネルギーが増えるので、心臓はたくさん働いて筋骨格が動けるように努めます。しかし、心不全を患っている力の弱まった心臓は、細胞や臓器の需要に応じて酸素や栄養を含んだ血液を送り届けることが難しくなっています。しかし、心臓は出来る限り頑張ろうとします。この状態は心負荷と言われます。心負荷がかかり続けると、心臓は通常できていた動きも出来なくなり、力を失ってしまうのです。
つまり、労作により心臓が苦しく感じたり、心不全症状が出現したりするのは、心負荷がかかっており身体活動の需要に応じることが困難になったサインなのです。また、心臓が苦しくなったり症状が出現するようなことはないが、いつも出来ることができない、身体がもたなくなったと感じるときも、『年だな~』と片付けられない、心負荷の可能性が十分にあるのです。心不全を患っている方は、身体活動が心臓の力に影響されていることを理解しておくことが重要です。
身体活動によって心負荷がかかると、息切れやむくみ、尿量減少といった、心不全症状が出現しやすくなります。症状が出たときには、心不全の増悪が進んでいる状態になりますので、そうなる前に、自ら身体活動量をコントロール出来るようにセルフモニタリングを実践することが必要となります。自分の心臓の力と予備力を理解し、心臓に負担をかけない運動や労作で、穏やかな生活を送りたいものです。
さて、今、あなたは、『身体の動き(活動量)は、心機能の影響をうけている』と理解することができましたでしょうか?
合わせて、「尿量の変化で、モニタリングすべきポイント」も理解してくださいね。
尿量でセルフモニタリングすべきポイント
『身体の動き(活動量)は、心機能の影響をうけている』ということは理解できましたか?
まだ理解できていない人は、「身体の動き(活動量)をセルフモニタリングしていますか?」を参照してくださいね。
日常生活は、身体の動きなしには送れません。家で過ごしているとしても、衣食住のための身体の動きはそれなりにハードです。お掃除、お洗濯干し、料理、庭の手入れ、などなど、ゆっくりしていることは意外と少ないものです。そして、お仕事をしている方は、なおのこと、階段を上がる、作業をする、暑い・寒い環境で過ごす、など、身体に多くの刺激が加わっています。心臓の予備力が弱い心不全の方は、このような自分の日常生活で可能な活動がどのようなレベルであるのかを把握しておくことが重要です。
心不全症状もなく、体調がすこぶる良いので、犬の散歩に行こうと、滅多にしないことをした患者様は、走る犬を追いかけるのに必死で予想以上に走る、引っ張るという身体活動を行いました。その結果、どうなったと思いますか?
ーそうです、心不全の増悪を引き起こしてしまいました。
その日の夜、身体のむくみが出現し、尿量が減少し、翌日には1.5キロの体重増加があり、翌日は息切れがして、トイレに行くのもしんどい状態になってしまいました。
このような結果になった理由をあなたは説明できますか?
-やや稚拙ですが、分かりやすく解説すると、心不全を患った心臓が対応できる身体活動を超える運動量に応えようと、心臓はムチを打つかのように走る、引っ張るという動作を行っている筋骨格系に酸素と栄養を供給しました。しかし、持つ力以上の頑張りを発揮した心臓は、その後、力を失ってしまい、生命維持に必要な脳や臓器系に最低限の酸素と栄養を供給するのが精いっぱいという状態になってしまったと考えられます。恐らく、散歩の終盤には、息切れや倦怠感が出現したり、思うように身体を動かせなかったりする状態があったであろうと思われます。何とか自宅にたどり着き、休息したけれど、限界まで働いた心臓は力尽きており、生命維持に必要な脳や臓器系への血液供給が精いっぱいという状態から抜けられなかったのだろうと考えられます。それは、非常に血圧が低くなっている状態で、腎臓で尿を作りだすには不十分であったかもしれません。その結果、尿量は不十分となり、不要な水分が体内に蓄積する状態となり、身体のむくみが生じ、体重増加に至ったと言えるでしょう。体重が増えて、尿量が確保できていない状態は、倦怠感の増強をもたらし、いつも出来ていた身体活動も困難にしてしまうのです。多少の推察も含まれていますが、身体活動と心臓の関係を垣間見ることが出来たのではないでしょうか?
だから、自分の病状に応じた身体活動を知り、それにみあった動きが出来ているかをセルフモニタリングして、身体に負担をかけないよう気を付けることが重要なのです。
あなたの生活で、身体活動が増強しやすいタイミングや、気を付けた方がよい動きなどがあります。人それぞれなので一概に言えないのがつらいところですが、その動きを理解し、自分で身体活動をコントロール出来るようになることが心不全悪化の予防策になるのです。ぜひ意識してみましょう。
これまで、私が出会った患者様は、
・朝起きたとき:いつも通り起き上がり、朝起きたときの行動パターンをいつも通りこなせているかどうかを意識している
・通勤、通院など移動したとき:いつものコースを変えず、疲れにくい手段を選ぶようにしている
・家事をしたとき:自分が安心して出来る家事だけをこなしている。掃除機をかけるとしんどくなるので、娘に来てもらうようにしている
などなど、生活の随所で自分の身体活動の限界を把握し、それを超えない工夫をしたり、自分の身体活動量の変化を意識する努力をなさっているようです。
心不全、心臓病をお持ちの方は、心臓が弱っているために、身体活動の限界があります。それを知っておくことが大切です。その変化の様相によっては、病状の悪化を察知することも可能です。
つまり、身体の動き(活動量)でセルフモニタリングすべきポイントは、自己の生活における身体活動の限界を把握し、いつも通りに動けているか、何をすると体調を崩しやすいのかを把握すること、です。
合わせて、「身体の動き(活動量)の変化を自覚したらどうしたらいいのか?」も理解してくださいね。
身体の動き(活動量)の変化を自覚したらどうしたらいいのか?
あなたは、自分の生活において、身体の動き(活動量)の変化の出現に留意する必要性が、わかってきましたか?
まだ理解できていない人は、「身体の動き(活動量)の変化の自覚をセルフモニタリングしていますか?」を参照してくださいね。
さて、身体の動き(活動量)の変化や尿の出方の違いが感じられたらどうすればよいのでしょう??
先ずは、動かせる範囲や程度がどのように変化しているのか、よく意識してみましょう。
いつものように動こうと思えば出来ないこともないが、しんどかったり、息切れが出やすかったりする場合は、無理に動くことは控えるべき心臓の状態と考えられます。
そして、安静にすることで、また動く調子が戻ってきたり、やる気が戻ってくれば、心臓の負荷はそれほど重いものではなかったと解釈できるでしょう。
一方、動いたあとに、しんどくなったり、倦怠感やむくみが出現し、調子が良くないなと感じることもあります。このような場合は、心負荷がかかっている状態と考えられます。
まずは安静にし、血圧や脈拍を測定し、いつもとの差異はどうか、また、尿量が減少したり体重が増えていないか、を確認しましょう。とても休息が必要な状態で、身体を休めることで心臓の仕事負担が軽減し、回復することがあります。しかし、横になっても、倦怠感が取れない、尿が出にくい、横になっても眠れない・休めない、または横になることすらしんどい、といった症状がある場合は、急性増悪していることが考えられ、ご自宅で安静にしても回復は困難な状態と言えます。
自分の症状と向き合い、心負荷がかかっているのか、休めば身体活動が回復するのか、見極めていくことが重要です。
もし、自分の状態が分からない、今後の見通しが持てない時は、早急にかかりつけ医を訪れましょう。
時々、「自分が動けないのは、怠けているからだ!」と、自分をいさめ、病院になかなか行こうとなさらない方がおられます。病院に来た時には、急性増悪が進み、命が危険にさらされてしまっています。
心不全のある方は、身体の動きの負担感が心負荷を反映していることを理解し、絶対に我慢せず、対処しましょう。
そして、適切な対処が出来るようになるために、自分の心負荷と身体活動の関係を把握するように努め、自分の活動量と活動に伴う症状の出現状況をセルフモニタリングしましょう。
状や状態に対する解釈が適切になされることで、病状悪化が食い止められるのです。
心臓を守るのは、あなた自身のセルフモニタリングで可能です。自分の傾向を医師と相談し、留意点を確認していくことも積極的に取り入れていくとよいでしょう。
身体の動き(活動量)の変化の自覚をあなたの生活に取り入れて、その症状変化に適切な判断を下していきましょう。